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「すごろく的算術式移調法」


すごろく的算術式移調法

問題なく楽譜を見ながら演奏ができる人でも移調となると苦戦される人も多いと思います。

移調とは音の並びの間隔を保ったまま平行移動して他の調に移すことです。簡単に言うとその調の”ドレミファソラシド”を移動先の調の”ドレミファソラシド”に移す作業です。

移調する上でまず重要なことは移調した先が何調かを知ることです。それさえすぐ判れば作業はかなり楽になります。ここではその移調先の調号を簡単に導き出す方法を紹介したいと思います。

調号の増え方には法則性があります。その法則性を見方を変えて利用することで面白いぐらいに転調先の調号を導き出すことができるようになります。

調号というものはその法則性から足し算、引き算のように扱えます。さらに鍵盤を思い浮かべ視覚的イメージを取り入れることでものすごく理解しやすくなります。

その視覚的イメージがなんとなく”すごろく”に似ているということと、”調号を算術のように扱える”ということから勝手に名づけてみました。

その名も、”すごろく的算術式移調法”

さて、いきなり問題です。
問題1

変ホ長調(E♭major)の調号は通常フラットが3つで示されますが、あえてこの調をシャープで表そうとするときは何個になるか?


問題2

F管のホルン用の譜面(in F)でニ長調で記載されている楽曲をE♭管のアルトサックス用の譜面(in E♭)に移調する場合、何調になるか?

どうでしょうか、すぐ答が出せましたでしょうか?

慣れていないと結構難問だと思います。しかし、すごろく的算術式移調法を用いればこの問題も即答できるようになると思います。回答はのちほど。


では、早速ご紹介しましょう。


まず、調号の増え方の法則性から説明したいと思います。

シャープの調号完全5度上の調に移るたび一個づつ増えていくという法則があります。下の図を見ればきれいに左端の”C”から右に向かって完全5度の間隔で移動していることが確認できると思います。

(解りやすくこの章では長調で説明していきます。)
-図1-

このまま12回上がっていくと再び”C”にたどり着きます。ここでは7回分しか載せていません。スペースの都合もありますが、そこまでする必要も無いのです。後ほど説明します。

フラットの調号はシャープとは逆に完全5度下の調に移るたび一個づつ増えていくという法則性があります。下図では右端の”C”から完全5度づつ下がっているのが確認できると思います。
-図2-



ここで”異名同音”について触れておきたいと思います。

お気づきかもしれませんが、例えば”F#とG♭””BとC♭”
”C#とD♭”は表記が違えど同じ音です。このように同じ音でも違う読み方の出来る音のことを異名同音(エンハーモニック)といいます。
-図3-
音階でも同様に考えエンハーモニック変換することにより同じ音階でも2通りの表記ができます。エンハーモニック変換がよく行われる代表的なものは下記のようなものです。

C♭ Major Scaleフラット7個で表記されますが、
B Major Scaleとしてシャープ5個でも表記可。
(♭x7=#x5)

そして、F#Major Scaleシャープ6個で表記されますが、
G♭Major Scaleとしてフラット6個でも表記可能です。
(#x6=♭x6)

また、C# Major Scaleシャープ7個で表記されますが、
D♭Major Scaleフラット5個でも表記可。
(#x7=♭x5)

という風にそれぞれ2通りの書き方が出来ます。
-図4-
ようするに、このエンハーモニック変換をすればどの調であれ調号6個以内で表すことが出来るわけです。

まず8個以上も調号を使う必要がないので図1と図2では7回分しか載せていなかったのです。(試しに12回やってみてくださいね)

調号が多くなるほど演奏者としては読みにくくなります。しかしながら、前章でも触れたように”C major”以外の色々な調で演奏されることもそれなりの必要性があります。調号は6個までで済むような記譜を心がけましょう。


さて、先ほどの図1と図2をもっと近くにまとめてみましょう。

-図5-

これはその音から始まる長音階の調号を表しています。

例えば、”レ”から始まる"D Major Scale"はシャープが2つ。
”ラ♭”から始まる"A♭ Major Scale"はフラットが4つと一目で判ると思います。

なにやらここまで来るのにだいぶ話が長くなってしまいましたね。さて、ここからがすごろく的算術式移調法の核心ですよ!

図5をよく見ると面白い法則性を見出すことが出来ます。もう少し判りやすく黒鍵を無くして一般化してみます。
-図6-


よくみると真ん中を基準にシンメトリック(対称)性があると見てとれます。

調号が増えていく法則は、
”完全5度上の調に移ると#が1個づつ増えていく”
”完全5度下の調に移ると♭が1個づつ増えていく”
というものでしたね。

じつは完全5度移るときだけではなくどの調に移るときでも同様の法則が見られるのです。

例えば、判りやすい”全音”移るときを見てみましょう。
-図7-
C Malor Scaleの全音上の長調はD Malor Scaleで調号は2個。そして、その全音上の長調はE Malor Scaleで調号は4個です。さらに、その全音上の長調はF# Malor Scaleで調号は6個です。

”全音上の調に移ると#が2個づつ増えていく”
のが分かると思います。
-図8-



C Malor Scaleの全音下の長調はB♭ Malor Scaleで調号は2個。そして、その全音下の長調はA♭ Malor Scaleで調号は4個。さらに、その全音下の長調はG♭ Malor Scaleで調号は6個

”全音下の調に移ると♭が2個づつ増えていく”のが分かると思います。

今はわかり易いように”C”を基準に説明しましたが、この法則は何も”C”を基準に考えなくてもよいのです。どの調でも#を2つ足せば全音上がるし、♭を2つ足せば全音下がるのです。

「鍵盤上を何コマ進む(戻る)と調号が何個かづつ増えていく(減っていく)」という感じが”すごろく”っぽいと思うのですよ。(思わないとか言わないでください^^;)

そして、もうお気づきだと思いますが調号はまるで算術のように扱えるのです。
-図9-

ここで#と♭を足し合わせると打ち消し合い消えてしまうと定義します。
-図10-

# + ♭ = [ # + (-#) ] = 0
♭ + # = [ ♭ + (-♭) ] = 0
と考えることも出来ます。

先ほどの図7と図8を改めてみてみましょう。

F# majorを基準に考えて全音づつ下がっていくと、
-図11-

G♭majorを基準に考えて全音づつ上がっていくと、
-図11-

それぞれこんな感じになります。

解りやすいように全音で説明しましたが、半音づつでも長三度づつでも同じようにできます。

さて、この辺で最初の問題を解いてみましょう。
問題1

変ホ長調(E♭major)の調号は通常フラットが3つで示されますが、あえてこの調をシャープで表そうとするときは何個になるか?



解答:

まず、この変ホ長調(E♭major)の調号フラット3つを導くことからやってみたいと思います。

”ド”から”ミ♭”へ移動するには”全音”+”半音”とコマを進めます。すると”##”+”♭♭♭♭♭”=”♭♭♭”となります。

別ルートとして、”全音”+”全音”+”全音”と進んで”半音”下がっても”ミ♭”に到達できます。すると”##”+”##”+”#####”=”#x9”とも書けるわけです。

答え:#は9個



別解:

エンハーモニック変換式を使う方法もあります。

エンハーモニック変換式

P = 12 - d

( 12 ≧ d ≧ 0 )

この場合、P求めたい調号d元の調号となります。このときPとdは異調号であると約束しておきます。dであるならPになるということです。(”P”と”d”をチョイスしたのはちょっと物理学の公式っぽくてかっこいいかなと思いまして。f^^;)

問題1ではフラットが3つなのでd = 3となり代入すると、

P = 12 - d = 12 - 3 = 9

答え:#は9個


問題2

F管のホルン用の譜面(in F)でニ長調で記載されている楽曲をE♭管のアルトサックス用の譜面(in E♭)に移調する場合、何調になるか?



解答:

まず、ニ長調は#が2つで記載されます。F管を実音で考えるとF majorを基本としているということになります(♭は一つ)。そこから”##”を足すと”全音”上のG majorとなります(♭+##=#)。

E♭管を実音で考えるとE♭majorを基本としているということになります。E♭からGにたどり着こうとすれば”全音”+”全音”とコマを進めることになります。ですので、式で表すと

”##”+”##”=”#x4”

となります。#が4つということはホ長調(E major)ですね。


こういう考え方もできます。実音で書かれている譜面をin E♭用に書き直す場合は”全音半”上に移調することになります。”全音半”上に移調するためには”###”を足すことになります。ですので、

”#”+”###”=”#x4”


答え:ホ長調(E major)


他にも導き方はあると思いますが、一旦実音に戻して考えるのが一番分かりやすいと思います。
すごろく的算術式移調法、ご理解いただけましたでしょうか?なにかすごく長くなってしまい面倒くさいように感じてしまうかもしれません。しかし、慣れれば上の問題も2秒もあれば答えを出せるようになると思います。

ただ、やはり機械的に暗記して使うのは大変だと思います。まず調号の数を言われただけでその調が何調の可能性があるかどうかを即答でき、その調号を譜面のどこ書くのかすぐ判るぐらいになることが大事です。そうすれば、「半音上はC majorを基準に考えるとD♭majorだから♭は5個だな」などと導けます。

そのためには鍵盤上のどの音からでも長音階、短音階をすぐ弾けるようでなければいけません。そう出来るようになるためにはひたすら練習しかありません。

どのような練習をすればいいか分からない人はピアノの必須教本”HANON”の音階練習の部分を右手だけでも練習することをお勧めします。

しかしながら移調楽器を演奏している方は手っ取り早く、とりあえず自分の楽器の分だけでも覚えておくと便利だと思います。

例えば、トランペット、ユーホニューム、チューバ、クラリネット、テナーサックス、ソプラノサックスなどB♭管を使っている人は実音で書かれている譜面をin B♭用に直したい場合は”全音”上げて読めばいいのでその譜面の調号に”##”を足せばいいのです。逆にin B♭用の譜面を実音に直したい場合”全音”下げて読めばいいので”♭♭”を足す。

実音譜をアルトサックス、バリトンサックスなどのE♭管用に直したいのなら”全音半”上げて読めばいいので”###”を足す。逆にE♭管用を実音譜に直すのなら”全音半”下げればいいので”♭♭♭”を足す。

F管のホルン用に移すなら”完全5度”上げれば(”完全4度”下げれば)いいので”#”を足す。逆なら”♭”を足す。

という具合です。



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